生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

羽目の外し方⑧

鬱野たちとの会合がお開きになり、「ではまた」と挨拶して吉祥寺駅のエスカレーターを登りながら私は全員のSNSアカウントをブロックした。今日会った誰とも、それ以降連絡を取ることはなかった。 いま私は地元の街を歩いている。街を歩いていると、われわれ…

羽目の外し方⑦

春先といえども夜になると冷え込みも強くなり、外で立ち話を続けるのもなかなかつらくなってきた。「どこか移動する?」と鬱野が提案するが、エクスタの「そうですねぇ」という、一見肯定のようだが実は肯定でも否定でもない返答以外は、誰も何も言わなかっ…

羽目の外し方⑥

鬱野を含めた4人が私に注目した。上裸で叫んでいた男はすぐに観客が一人もいなくなったことに気づくと、開いていた大股を閉じ、やけにシュッとした姿勢になってこちらに近寄ってきた。シュッとしつつ、上裸だった。 「こちら、水草さんって言って、なんてい…

羽目の外し方⑤

久しぶりにいい気分になって終電で家に帰っていると、鬱野からスマートフォンにメッセージが来ていた。なんらかのwebページへのリンクだった。開くと、カップルと思しき高校生くらいの男女が、学校で行為に及んでいる動画だった。なんの説明もなくそのリンク…

羽目の外し方④

鬱野と私の間で交わされた会話をこれから書いていきたいのだが、鬱野が私の名を呼ぶところをどう表現しようか迷っている。というのも、私は、なにか固有名を持つ存在ではなく、「私」なのだと思っているからだ。他にも命名によって人物像がブレてしまうとい…

羽目の外し方③

鬱野というのは本名ではないだろう。わからない。全国にはそういう名前の人もいるかもしれない。どうでもいいか。彼のことはTwitter上でしかしらない。私は、世の大体のことはTwitter上でしかしらない。鬱野は三島由紀夫や寺山修司が好きで、はっぴいえんど…

羽目の外し方②

目覚まし時計のいらない日々が始まった。「今日から無職です」と試しにTwitterでつぶやいてみたが、さほど反応はない。同年代の人々は、多くが学生や社会人として、自分のやるべきことに取り組んでいるからだ。試しに街を出歩いてみる。近所の公園では、ビビ…

羽目の外し方①

2年間働いた会社を辞めた。最後の2週間ほどは有給休暇をもらっていた。その2週間の最終日に、会社から貸与されていたスマートフォン等の備品を返却することになっていた。「何時でもいいよ」とのことだったので、私は昼過ぎにのんびりと会社に行った。社員は…

サボり⑤

音楽鑑賞サークル「天狗」にはちょくちょく顔を出していたが、やることといえばゲームをするくらいだったので、本当に活動らしき活動はないとわかった。4月の段階で気を張り過ぎたのか、僕はどっと疲れてしまった。大学にどうしても行きたくない日は行かなか…

サボり④

男は立っていた。立っているのが不気味で、「立っているなよ」と思ってしまった。人間は普通、部屋にいるときは座っているからだ。だが、立っていることだってあり得る。それはどういう状況かというと踊っているときだ。人間は座ったまま踊ることはできない…

サボり③

空木が煙草を吸いたいというので喫煙所に来た。僕は自分の腕をさすったり、顎を撫でたり、iPhoneを出したりしまったりすることに専念した。「おまえすげぇよ」「そうかな」あまり褒められることに慣れていないのでこそばゆい心地がした。「おまえみたいに気…

サボり②

僕の高校から、その大学へ進学するのは僕一人だった。送付された資料のどこかには記されていたのかもしれないが、気づいたらオリエンテーションとやらは終わっていた。どこからも情報が入ってこないので仕方がなかった。単位の組み方がわからず教務部に行っ…

サボり①

「何を考えているんだ」と言われることがしばしばあったが、何か考えて行動しているわけでもなかった。高校の体育の授業中、たまたま手元にバスケットボールが回ってくると僕は立ち尽くしてしまった。誰にこのボールを渡せばいいのかわからなかった。教師が…

嘘日記

今日は、とくに何もしなかった。携帯端末で他人が発信した生活に関する些細な情報を漫然と眺めて一日が終わろうとしている。 僕は椅子から立ち上がると鍵だけ手に取って、家を出た。なにもかもが、おもしろくなかった。 近くの公園ではいつものように若者が…