生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

あの頃(仮)①

「聞いた?若宮の話?」

「聞いてない」

「ふーん…………………そっか。」

情報を持ってるアピールをしながら、その内実は教えてこないやつってマジでなんなんだろう。この手塚というデブは小学校のときからずっとそうだった。

「教えて」と請うのは、しゃくなので当てにいくことにする。飛び抜けた美少女というわけではないが、確実にかわいい部類の女子で、大きな目をしていて、愛嬌があり、キモいやつにもけっこう優しいため、クラスで一、二位を争う人気の若宮。彼女に起きたこととは?

「ついに柳川と付き合った?」

柳川もまた、爽やかなルックスながらそれを鼻にかけたりしない好男子だ。前に話したときに俺の「スニーカーソックスって、靴の中で脱げない?」という意見に共感してくれた。若宮とも中がいいし、お似合いのカップルだろう。

「柳川ではないな」

「ええっ」

誰だろう。他にもモテる男を思い浮かべるが、だいたい彼女がいる。

「……わかんない。誰?」

手塚はニヤニヤしている。

「教えてよ」

言いながらめちゃくちゃ悔しい。女騎士よりも悔しい。

「誰にも言うなよ」

「絶対に言わない」

「田辺」

田辺。その名を聞いて床に崩れ落ちそうになった。田辺。田辺?

「田辺って、あの?あの田辺?」

「そうだよ」

「うわー。」

俺は田辺が嫌いだ。体育のハンドボールのときに俺に対して「動けよ!」と言ってきたからだ。いつかぶっ殺してやる。いや、それ以前に。

「あいつのどこがいいの?あいつ、かっこいいの髪型だけじゃん!俺の方がまだマシだろ!」

「ふふふ」

「このご時世にファイナルファンタジーみたいな髪型してんじゃねえよ。なんで前髪にヘアピンつけてんだよ。目細いし、顔パンパンなのに髪型だけかっこよくてそのアンバランスさに思わず笑うわ!」

「サッカー超うまいじゃん」

「サッカー!?てめぇの○○○でもサックしてろや!サッカーが上手いからなに?俺だって剣玉けっこう上手いし。ルービックキューブ全面揃えられるし。まぁ10分くらいかかるけど。」

「女の立場から見たらお前と田辺どっちが魅力的なんだろな」

「俺だろ!!!じょうこう!常識的に考えて!俺はあいつより10キロは痩せてるぞ!」

「貧相なだけだろ」

「漫画、アニメを始めとするサブカルチャーに造詣が深い。」

「始めとするっていうか、主にその二つじゃん」

「何より、様々な苦しみを抱え、人生ハードモードなのに一生懸命生きてる。弱い人の心がわかる」

「90キロの巨体を引き摺って生きる俺の気持ちをわかれや…………」

「やだよきもちわるい。なんでそんな喋り方なの?」

「ああん?てめぇ、命とまでは言わないが、暴力的措置も辞さねぇぞ?」

「『命トマデハ言ワナイガ、暴力的措置モ辞サネェゾ?』何その言い回し?銀魂?」

俺が手塚に首を締められていると須原がやってきた。

「そのへんにしときなよ」

「あっ、須原じゃん、お前にぴったりのNTR案件があるぞ!」

「須原は童貞だろ」

「お前も童貞だろクソデブ」

「あ?」

ギリギリと首が締まる。

「みんな童貞だから取り敢えず落ち着こうぜ」と須原。

手塚がその汚い腕を俺の首からほどいた。

「こいつ、若宮の件で大騒ぎしてやんの。田辺より俺の方がマシみたいなこと言い出して」

「だってさ、田辺と付き合うことなくない?よりによってさ。アイツのどこに魅力を感じたらいいの?」

「きっしーは、ハンドボールの件があるからでしょ」

きっしーというのは俺です。

「それだけじゃねーよ。普段から感じの悪さがスメルズライクウンコって感じで匂い立ってんじゃん。歩き方見てるだけで腹立つわ」

「スメルズライク?」

「いや、なんでもない」

「スメルズライクとはなんでしょうなぁ!拙者のような一般人にもわかるように説明してくれへんかなぁ!」

「ちょっとスベったから勘弁してくれ……」

手塚の喋り方はキモいが、俺の喋り方もまた別の形のキモさを備えているのである。

「とにかく気に食わんわ。若宮はアイツのどこを好きになったんだ?顔ではないことは確かだけど……」

「ちんぽとか」須原。

一瞬で俺の心が葬式めいた灰色に染まる。慰めるやつはいない。

「ダハハ!ちんぽって!須原大先生のエロゲー脳には頭が下がりますな!」

「ちんぽか……」

「あくまでも憶測だけどね」

「どんな憶測だソレ!ダハハ!」

「ちんぽか……」

「そうだったら面白いよな。でも三次元の女性はやっぱり愛し合っているから気持ちが良くなるのであって、無理やりやられているうちに感じてくるっていうのは全くのフィクションらしいよ。ふたりエッチにかいてあった」

「須原はそれでいいのかい?」

「ちんぽか……」

「二次元と三次元は別物だからな。そういうもんだろ。…………っていうかきっしー凹み過ぎじゃね?」

「まさか岸田お前若宮のことが……?」

「別にそういうわけじゃないけど、田辺がニヤニヤしながら腰を振ってるところ想像すると死にたくなってくる」

「それ、けっこういいな」NTR厨須原。

「岸田的には若宮そんなでもないわけだ?」

「うん、田辺みたいなカスがバンバンやってるのが腹立つだけで、例えばさっき言った柳川とかとやってるってなら微笑ましく思うだけだよ」

「それはやっぱり童貞だからなんじゃないか?」

「そうかもしれない……」

俺は単にセックスをしてる人が羨ましいだけなのだ。

「俺と手塚はそんなでもないけど、きっしーからは焦りを感じるな。一刻も早く童貞を捨てたいみたいな」

「え、お前らはそうじゃないの?」

「俺は一生童貞だよ。たぶん」そういう手塚がなぜかすごくかっこよく見えた。

「一生は、ちょっとって思うけど、出来ないんなら出来ないで、妄想を捗らせるから大丈夫だな」

「お前ら、ある意味で大人なんだな……」

ふと、我に返ってしまう。自分のもがきっぷりが我ながら痛々しい。

「例えばの話だが、誰とならやりたい?」

手塚がそう言って、妙な沈黙が生まれた。

「手塚もそう思う三次元の女がいるのか?」と須原が驚いたような顔で言う。

「まぁ、いないと言わないでもなきにしもなくないと言わんでもないな……」

いるのか。意外だ。

「誰?」

「いやだからいるとは言ってないだろ。須原はどうなんだよ」

「俺は普通にいるよ?」

「どうせNTRが似合う女子だろ」

「いやいや、ファンタジーとリアルは分けて考えられるからさ。俺、普通に子どもとか欲しいと思ってるくらいだし」

「じゃあその子どもを俺にだな……」

「嫌だ」

「そうか。ていうか岸田どうした?黙っちゃって」

「いや、どうも」

「思い当たる節があるんだな?」

「ないよ」

「嘘つけ絶対あるゾ」

「……わかった。こうしよう。全員言おう」

「あるんじゃねえか!」

「全員がいっせいに言う。それで文句なしだ」

「いいね」

「よし、決まり。それじゃいくよ。せーの」