生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

トゲトゲの森

トゲトゲの森は巨大なソフトクリームのコーンを裏返したもので出来ているのだが、先日、暗黒平野調査団のヘリコプター内で痴話喧嘩のもつれの末乗組員4名が飛び降り、コーンの先に身を貫かれて死んだ。血液の付着したコーンにハイエナがたかり、サクサクという音を森中に響かせたという。

そんなトゲトゲの森に僕らはやってきた。僕らとは男4人で構成された大学生の集団である。皆、ラジオ同好会に所属しているのだが、誰もラジオに興味がない。入学当初ものすごく美人の先輩に釣られて入部したのだが、4人ともまともに会話することもなく先輩は卒業してしまった。それ以降は時間を持て余しラジオとは無関係な活動に身をやつしている。

柳川はガリガリに痩せているのだが、とにかく常に何か食べている。太ろう太ろうと努力し、氷砂糖をバリボリ食したりもしているのだが、一向に太る様子がない。「太ろうとする」のが彼の趣味で、部室にいるときもその趣味を続行していた。ふと思ったが、この柳川という男は全く面白くない。早く部をやめて欲しい。正直、顔も見たくないと思う。面白くないのだ。

駒田はナイフを飲み込むマジックが出来る。どういう理屈かはわからないが、よくナイフを飲んでいる。「感情を失った」というワードにはまっているらしく「感情を失った○○かよ」という喩えツッコミを頻用するのだが特にピンときたことはない。

石野は少し絵が上手い。一度僕の絵を描いてもらった。また今度描いてもらいたい。

そんな柳川、駒田、石野と僕で、トゲトゲの森に訪れたのだが、トゲトゲの森の看板を通り過ぎて数分で左腕が千切れている男に出会った。男はとれた左腕を右手でもって喰っていた。左腕があった場所からは血がどばどば流れているのだが少しづつ再生しているようだ。時計の短針がいつ動いているのかわからないように、いつ再生しているのかを確認することが困難なのだが、気づくと腕が伸びている。極めて怪しい男ではあったが、まさか人に会えるとは思っていなかったので話しかけることにした。

「すいませ〜ん、攻殻機動隊の作画資料集はどこにありますか?」

左腕再生男は興味深そうにこちらを見つめてから首を傾げた。それからすぐにこちらに関心をなくし、通り過ぎて行ってしまった。

「なぁ、こんなところに攻殻機動隊の作画資料集があるわけないだろ?もう帰ろうぜ」と柳川が言った。

攻殻機動隊の作画資料集を探してるのは鎮須磨だけじゃん。俺は純粋に死にに来たんだよ」と駒田が答える。

「いや、お前の事情は知らねぇよ」

「そういうことじゃなくて、俺が言いたいのは柳川以外はみんな何かしらの目的をもってここに来てるんだ。帰るなら一人で帰れよ」

「石野もそうなのか?」

「え、俺は、目的とか特にないかもな。コーンを齧ってみたいっていう気持ちはあったけど」

柳川は立ち止まった。そしてくるりと踵を返し元来た道を引き返して行った。

三人になった。

コーンが見えてきた。非常に大きく香ばしい匂いがする。多くの小さな虫が付着しているが、それを払いのけ、僕らは一口ずつ齧った。

「市販のとあまり変わらないな」

「あ、ちょっと蟻喰っちゃった」

「でもこれ美味い」

僕らは三人で笑った。駒田はそろそろ死に場所を決めたいらしい。

「死ぬ前にいい思い出が出来たよ。みんなありがとう」

駒田はコーンとコーンの合間を縫ってわずかに生えていた木の一つにロープをくくりつけた。

「駒田はなんで死ぬの?」石野が言った。

「特に生きる理由がなくて。両親が死んで、齧る脛もないし、働く気はないし」

駒田は歌を歌い始めた。ラップ調でほとんど聞き取れなかったが聞き取れた部分では

「yo俺がこの場所から始めるスーサイド。彼女と行った品川シーサイド。」みたいなことを言っていた。白目の量が多くなり、涎を大量に垂らしながら顔を紫色にして駒田は死んだ。

石野と二人で歩いているとコーンのかげに猫くらいの大きさのインド象を見つけた。象は体を丸め縦横無尽にゴロゴロ転がって砂埃を巻き上げていた。

「これ、めちゃくちゃかわいいな!」と僕は言った。

「喰えるかな?」石野が言った。

「いや、こういうかわいい生き物は、喰うより、生き続けた方が世界に対して利益があると思わない?」

「俺は腹が減ったよう」

結局石野を何度も殴りつけることによって諦めさせたが、石野は前歯2本とその左隣の歯を失った。僕は持っていたグミをその歯があった空間にあてがったら見事にはまったので、写真を撮った。二人でそれを見ると笑えた。

自分も何らかの肉体的な代償を払わなければならないと石野に提案すると、石野は「ペニスを切り落とせ」と言った。僕は道具が見つからないから少し待ってくれと言ったが、「俺が噛み切ってあげるよ」とのことだったので、提案に甘んじた。

筋繊維はなかなか噛み切れなかったため時間がかかった上に切断面がズタボロだったが、無事、噛みちぎることが出来た。石野はそれを喰った。

僕はもう歩くことができなかった。

「もう攻殻機動隊の作画資料集にも特に興味が湧かないな」僕は言った。石野は「俺はこの森にも最初からそれほど興味はなかったんだよな」と言って笑った。

尻を血の海に浸しながら朦朧とする頭で過去を振り返ってみた。すると、小学校の廊下に立たされているときや、万引きをして両親と共に中学校の職員室に呼び出されているときや、向こうのマッチポイントで自分が放ったサーブが二回ともネットに引っかかり敗退し、ペアの男に唾を吐かれたときなどが浮かんだ。その情景の上を大量のエビが飛び交い始めた。次第にその量と速度がまし、最後は何本もの桃色の線が斜めに交差する平面だけが残った。

石野はあのカツラをかぶったマルマインのような顔の美大生の彼女と結婚して二人の子を為すのだろう。しかしそのことは僕に何の関係もない。