生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

ロボット

久々に会ったO君は昔の面影をまるで残していなかった。太りすぎていた。ただでさえ細かった目が頬の肉でさらに細く見えた。

「O君は最近何してるの?」

「筋トレ始めたよ」

そんなことが聞きたかったわけじゃなかったが、「最近何してるの?」と訊いて面白い回答が返ってくることはまずないのでこっちが悪かった。「普段家で何してるんですか?」につぐ、よくない質問だ。

「今からうち来なよ。面白いものがあるんだよ」

その言葉につられて僕はO君について行った。

O君の家はクリーニング屋さん、お風呂屋さん、駄菓子屋といった「経営大丈夫?」と訊きたくなるような非今日的店舗が立ち並ぶ商店街にある、小さめの神社と薬局のあいだの裏道をまっすぐ行って、その行き止まりにあった。今の地理的な説明は別に大事ではないので、要は暗めの裏道にO君の家があるとわかってもらえれば大丈夫だ。

O君の家は表面にツタのようなものがはりついているところもあるが、かといってそのツタがびっしり覆っているわけではなかった。不気味とは思わず、単に年季を感じた。おばあちゃんかおじいちゃんが一緒に住んでいそうだった。

僕が玄関で靴を揃えると「ちゃんとしてるなあ」とO君が言った。

「誰もいないの?」

「いない。親仕事」

かなり急な階段を三階まで登るとO君の部屋があった。

「これよ」

部屋の中に小学生くらいの大きさのロボットがいた。人間と違って足がなく、タイヤで動くようだ。モーター音を立てながら前後左右にかなり素早く動く。

「ぶっ殺すぞ!」

突然O君が怒鳴った。僕の体が縮み上がった。

「やだー。殺さないでー」

やけにのっぺりとした調子でロボットが反応した。

「親父が当てたんだよ」

「へえ」

「なあにーもう一回言ってー」

「黙れ」

O君がそう言うとロボットが少しモーター音を立てたのちに、目から光を消し、沈黙した。

「これあげるよ」

「え」

「いらないから、あげる」

かなり強めに断り続けたのだが、だんだんとO君がイライラしはじめて、肉に埋もれかけた目の奥が笑ってないようにも感じたので、持ち帰ることにした。

持ち帰るというのは言葉のあやで、「持つ」ことはできない。僕はO君の指示に従い、ロボットの瞳を見つめたり、ロボットの目の前でゆっくり横に一回転したり、何度か声を出したりした。ロボットが僕を認識したので、路上に出て並んで移動してみた。僕は足で、ロボットはタイヤで。ロボットが僕についてくることを確認するとそのまま流れで帰宅することになった。

「なんかあったらカスタマーサービスに電話すればすぐ来てくれるよ」

O君は僕らに手を振ってくれた。目は細いからわからないが、口角の感じでは笑っていた。

僕は家には持ち帰れないと判断した。

線路沿いのなるべく人通りの少ない道を僕らは進んだ。それでも知らないおばあちゃんに絡まれたりしたが、僕は愛想よく笑いながらもいちいち歩みをとめなかった。

ロボットは脈絡もなくうるさい音を発したり、勝手にうなだれるような恰好をして地面によくわからない映像を目から投射したりして、少しうっとうしかった。そういう場合も構わず歩き続けるのだが、あまりにも僕が先に行き過ぎるとついてこなくなるので、引き返して動作が収まるまで待つ必要があった。

駅でいうと二駅ほど歩き、体にかなりの疲労を感じつつ、土手にたどり着いた。あまり考えることをせずにここまで来てしまったので、階段で土手を上がることができないのを忘れていた。しかし、少し歩くと車椅子の方への配慮なのか、なだらかな坂があったので、それを上っていった。なだらかな分、かなりの距離を歩かなければならないので、階段で行くよりはるかに時間がかかった。

降りるときは、乱暴だが、ロボットを横に倒し、草の斜面の上を転がした。ものすごい勢いがつき、途中、 跳ね上がったりもしたが、草なので、それほど衝撃は大きくないようだった。

ロボットを起こし、夕日と、光を反射する川面を見つめた。ロボットはおそらく、夕日も、川面も理解しない。

僕は川に向かって歩き出した。水辺に近づいてきても歩く速度を緩めたりはしなかった。そのままの勢いで水の中に入っていった。靴の中まで水浸しになったが、どうせボロボロだったので、帰ったら捨てようと思った。

背後でバシャンという水の音がした。ロボットが川に倒れこんでいた。それきりロボットは動かなくなった。僕は川から上がった。

そのままの足でコンビニに行ってタオルを買った。靴と靴下は一度脱いでしまうともう履く気になれず、コンビニの前に置き去りにした。

帰り道でもさっきとは別のおばあちゃんに、裸足を見つめられながら「陸上の選手なの?」と訊ねられた。

「そうなんです」と僕は答えたが、僕は陸上の選手ではない。