生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

架空日記

友人に、僕に似てる人がいるので会ってみないかと言われた。会ってみることにした。

何故そう思ったのかというと、本当は知らない人と会うのなんて好きではないのだが、それが好きでないという事実が自分の人生に与えてきたダメージを考えると、僕は多大な損失を被ったんじゃないかと考えてしまうところがあったからだ。
風邪を引いて大学に行けずレジュメをもらえなかったとき、友達に見せてもらうことができたらこれほど楽なことはない。
僕は人と話すのがいやで、就職活動を途中でやめてしまったくらいだ。
僕に似てる人は、僕に似てなかった。僕は似てないと思った。性別すら異なっていた。
「休みの日は何をしているんですか?」
「特に何もしてないですね」
何もしてないなんてことがあるだろうか。本当のところを述べるならこうなる。10時に目が覚めて布団の中でTwitterを見る。隅々まで見る。誰かがYouTubeのリンクを貼っていたらそれも見る。1時間かかる。11時頃にアダルト動画を見る。いろいろ見比べて、これだという動画を見ながら自慰をする。12時くらいに母親が昼ごはんを出してくれるので食べる。13時頃に家を出て本屋に行く。特に買うものはないが、立ち読みをする。行き帰りの途中でジュースを買って公園で飲んだりする。Twitterも見る。15時頃家に帰る。昼寝をする。18時頃に起きて夕飯を食べる。風呂に入る。Twitterを見る。そうしてる間に時が経つ。2時頃布団に入る。
アダルト動画とTwitterと音楽で出来ている僕は話題があまりにも偏っている。偏った話題でも、プレゼン力がないから面白おかしく語れない。映画を観た後「面白かった」としか言えないタイプの人間だ。
僕は曖昧な笑みを浮かべながら、頷いている風の動作を繰り返していたが、友人と、僕に似ているという人は二人で盛り上がっていた。僕の知らないお笑い芸人の話をしていた。店主がもう閉めるというので、一人千五百円くらい出して、すっかり日の暮れた赤羽の路上に躍り出た。
「見て星!」と僕に似ているという人が空を指差したが、僕も友人もそれは見なかった。僕はテディベアみたいに足をワイドに投げ出して潰れている会社員に気を取られていたし、友人は僕に似ているという人にもたれかかりながらゆっくりと彼女の腰をさすることに集中していた。僕たちは、誰が言い出すでもなく荒川に向かった、といえたら少し格好よかったのだが、僕に似ているという人が明確に「荒川をみたい」と言って、僕と友人がそれに従っただけなので、別に格好よくなかった。
夜に川を見るのはとてもよかった。ナオトインティライミドキュメンタリー映画を観たことはあるだろうか。彼は世界中を旅しながら、そこで出会った人と音楽によって心を通わせているつもりになり、呼吸するように紙クズのような名言を吐いていく。ナオトインティライミは本当は世界各地の人々が何を考えているかなど興味がないのだ。彼らとはコミュニケーションをとることができない。できないからこそナオトインティライミはそこにいくらでも好き勝手なイメージを投影できる。川を見ながら、川は誰の所有物でもなく、なんのメッセージも発しないので、僕は心地よく、自己を投影することができたのだ。これが人の家や、企業のビルや、誰かの土地だったら、それは僕とは関係のないものなので、何も投影することができない。
ナオトインティライミの世界が、三面鏡に映る大量のナオトインティライミをナオト自身が無限に確認することによって成立しているように、僕の世界が、僕が僕を確認することでしか成り立っていなのだとしたら、それはとても恥ずかしいことだ。
友人はこの、僕に似ているという女性が好きなのだろうか。たぶんそうなのだと思うが、悲しいかな、彼はすっかり潰れてしまっていた。土手に生い茂る草っ原の中に半ば埋もれながら彼は眠っていた。僕は、この、僕に似ているという、実際僕には似ていない人と何を話せばいいのだろうか。
「江南くん(僕の名前だ)、今年はスイカを食べた?」
「いや、全く」
「そう。江南くんは、何をすることを面白いと思う人なの?」
「川を見るのは面白いね」
「そうだね」
僕は気になっていることを聞いてみた。
「三種(友人の名前だ)は、僕と佐伯さん(僕に似ているという人の名前だ)が似ているって言ってたけど、僕たちは似てないよね」
「うん、似てないね」
彼女は笑った。
「私にも、似てる人がいるからって言ってたけど、単なる口実だったんだと思う」
僕はこんなところで自分は何をしているんだろうと思ってしまった。何も噛み合っていない会合だと思った。
「僕、もうそろそろ帰らなきゃ。終電が」
「三種くんを置いて帰るの?」
「置いて帰りたい」
「いやだよ、そんなの。私面倒見たくない」
幸い、三種のポケットには鼻をかんだティッシュやレシートやうんこの形をしたキーホルダーなどのガラクタに紛れて財布と鍵を確認できた。
僕らはタクシーで三種の家に行った。三種も佐伯さんも全然金を持っていなくて、僕がクレジットカードを使ったが、5600円は無職には身を切るように痛い金額だった。
三人で床に横になった。僕は佐伯さんに手を出そうとして「ごめんダメ」と言われてしまった。これもまた一生忘れない傷になるだろうなというくらいつらかった。ただ、人の家でうまく眠れず、全身に倦怠感を覚えながら窓から差し込んでくる日光を眩しく思うのは悪くなかった。