生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

サボり③

空木が煙草を吸いたいというので喫煙所に来た。僕は自分の腕をさすったり、顎を撫でたり、iPhoneを出したりしまったりすることに専念した。
「おまえすげぇよ」
「そうかな」あまり褒められることに慣れていないのでこそばゆい心地がした。
「おまえみたいに気持ち悪い奴初めて見た!なんだよ石って」
「あれは」
バンプオブチキンかよ!バンプオブチキンに影響を受けたアホが喋ってるみたいだった」
「だって、面白いこと言えって」
「いままで友達とかいた?」
空木は興奮しているようで、僕の話を聞いていない。
「さほど」
「俺という友達ができてよかったね。あはははは!」
帰ることにした。
「え、ちょっとどこいくの、おいおい、ちょっとちょっと」
「おまえみたいに不愉快な奴とは関わりたくないな」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。謝るよ。ごめん」
我々は学食へ向かった。
学食では油淋鶏を食べた。味は悪くなかったが、毎日食べるのはキツいと思われた。なんというか覚えやすい味なのだ。3口くらい食べると味の全貌が把握できてしまう。空木も学食の油淋鶏のように毎日会うのはキツい人間なんじゃないかと踏んでいたが、残念ながら我々は毎日のように会うことになる。
「距離感がわからなくてさ。けっこうそれで嫌われたりするんだ」
「そんな感じするね」
「これからは気をつけるよ。今のところ俺にはおまえしか友達がいないから」
「それはよくない。もっとちゃんとした友達を見つけよう」
「ゼミの男たちとは仲良くなれそうにないからなー。そうだ、なにかサークルに入ろう」
初め空木はテニスサークルに入りたいと主張したが、却下した。僕は漫画研究会に入りたいと主張したが、空木が嫌がった。結局、間をとってということで、音楽鑑賞サークル「天狗」というところを訪問することにした。
サークル棟に行くには一度大学のキャンパスから出て、移動する必要があったが、少し迷ってしまった。というのも、サークル棟が大学の校舎に比してあまりにも見窄らしかったため、目の前にあるにも拘らず何度か通り過ぎてしまったからだ。
「ほんとにここであってるのか?」空木は鶏のように首を上下に動かしながら建物や門扉を確認していた。
「わからないけど行ってみよう」
サークル棟の中で比較的新しく見える建物を隈なく探索した。しかし、どうやらこの建物には運動部しか入っていないようだった。汗臭さが全体に漂っていて一刻も早くここを出たいという気分にさせられた。グラウンドで練習しているのか、ほとんどの部室に人はいなかったが、奥の方に一つだけ爆音でGReeeeNの「キセキ」を垂れ流しにしている部屋があった。覗いてみると、見事な肉体の男たちが小麦色の肌を汗で光らせながら、ベンチプレスなどの器具を用いガシャンガシャンという騒音を発生させていた。男たちが怪訝な目でこちらを見てきたため、速やかに立ち去った。
次に、日当たりのせいもあってか、やや薄暗く見える建物に入ったが、ここにも音楽鑑賞サークルらしき部屋はなかった。そうすると、残るは壁中に蔦が絡みつき、ところどころ茶色く枯れている一番薄汚い建物のみになる。
ウヒャヒャという笑い声を上げながら4人の眼鏡をかけた男たちがボードゲームらしきものに励んでいる部屋や、アロマのようなものを焚いていて何故か全員横になっている部屋や、おそらくは政治的な思想について激しく討論を交わしている部屋など、できれば関わりたくないところを入念に避けていくと、とうとう3階まで辿り着いた。レッドツェッペリンの飛行船のステッカーの貼られている扉があった。拍子抜けするほどわかりやすい。
扉を開けるとマッシュルームカットに辛子色の柄シャツを着ている男がいた。
「いらっしゃい」