生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

サボり④

男は立っていた。立っているのが不気味で、「立っているなよ」と思ってしまった。人間は普通、部屋にいるときは座っているからだ。だが、立っていることだってあり得る。それはどういう状況かというと踊っているときだ。人間は座ったまま踊ることはできない。だから踊るために立っていたという可能性は十分考えられる。だが男は踊っていなかった。でも、男は直立しているわけではなかった。体幹が少し斜めになっていたし、手首はティラノサウルスのように体の目の前にちょこんと掲げられていた。これは言ってみれば踊っていたことの名残だろう。
そして今この部屋には小さな音で音楽が流れている。「エニュアジュウォッキン、エニュアジュウォッキン、アユウォーキン、ニッ」と流れている。つまり「スムース・クリミナル」である。「スムース・クリミナル」を聴きながら直立不動でいる人間はいない。だから男は、僕らが部屋に入ってくる直前までは踊っていたのだが、ドアを開ける音に気づき慌てて踊るのをやめたということが推測できる。
「新入生?」
僕らは顔を見合わせた。もちろん「はいそうです」と言えばいいだけの話なのだが、それをどちらが答えるか迷ったのだ。空木が「はい」と答えた。このように、僕は何でも人にやらせる癖がある。
「ヘェ〜。ま、とりあえず座りなよ」と言って男は床を指し示した。特に座るための座布団的なものはないようだ。テーブルはあるのでその周りに、ここに座るので合ってるのかなと思いながら座った。
「じゃあまあ、とりあえず自己紹介でもしてもらうか。いやーでも来ると思ってなかったから何も用意してないや」
男は近くのプリントを2、3枚とって裏返して寄越した。名前、学部、好きな音楽などを書いた。
「来てもらってアレだけど、別に活動とかないんだよね」
男はアイテテテといいながら腰を下ろした。「部員も俺以外はあと4人しかいなくて、よく来るのは2人かな」
背後の扉が開いた。
「お、噂をしていたら」
振り返ると人がいた。黒のスキニーパンツに、アイアンメイデンのTシャツに、胸元くらいまである黒の長髪の美女だった。目が大きく眉毛が太いので、顔面が発する圧がすごい。
女は無言で部屋を横切って窓辺にもたれて、こちらを見つめていた。目が合いそうになったので、慌てて逸らした。
「新入生?」女が男に聞いた。
「そう」
「入りたいの?」
「どうなんだろう。入りたいの?」
僕らは顔を見合わせた。空木が「はい」と答えた。
「入りたいんだって」と男が女に伝えた。
「ふーん」
ここの部員は、入部希望者を歓待するとかそういった気持ちは全く持ち合わせていないようだった。