生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

サボり⑥

荒川の土手に行くときはダンボールを持っていくのがおすすめだ。といっても箱として利用するわけじゃない。展開して、一枚の板のようにする。それを尻に敷いて滑る。
これは本当に危険な遊びだ。体の小さな子供がやるならそれほど速度も上がらないが、僕のようにある程度成長した人間が土手を滑ると勢いがつき過ぎる。
滑り降りる途中で石に衝突したときは、前方につんのめってそのまま転げ落ちた。体のいたるところを地面にうちつけ、涙が出そうになったが、文明化され危険から隔離された人間は、このようにして生の実感を取り戻す必要があるのだろうと思い、痛みを堪えた。
そうして土手を滑り、失敗し、転げ落ちている様は、自然と人目を惹いた。あるとき「大丈夫?」と声をかけてきたおじさんがいた。
おじさんはラーメンの汁が跳ねたようなシミのついたスウェットを着ていたので不潔そうで嫌だったが、体臭などはしないとわかるとそれほど嫌ではなくなった。話によるとおじさんは図書館の司書をしていたが、盗撮をしていて捕まってしまったらしい。書架の下の方の書物を整理するふりをして小型カメラでスカートの中を撮っていたところを私服警備員に取り押さえられたそうだ。
「今は、薬を飲んでるからだいぶ落ち着いているけど、昔は若い女の子の下着のことで頭がいっぱいでね」
「僕も若い女の子の下着、興味あります」
おじさんは人差し指を立てて左右に振ってみせた。
「そんなんじゃないんだよ。もう心臓が裂けそうなくらいパンツがみたいんだ。きみは我慢できるでしょ。俺は変態なんだ。変態の星の下に生まれついたんだよ。」そういっておじさんは乾いた声で笑った。
「あとは女の子が捨てたペットボトルとかストローが挿さってる紙パックを回収していたね。こんなことをいうと不謹慎かもしれないけど、あの頃が一番楽しかったよ」
「今は毎日何をしてるんですか?」
「毎日絵を描いてるよ。アイドルの画像をインターネットで調べて、模写してる」
「誰が好きなんですか?」
「それはねー、篠崎愛かなー」
おじさんは46歳で、もう10年以上は親の金で生きているらしい。幸い、贅沢をしなければ死ぬまで働かなくてもいいくらいの財産はあるようだ。
おじさんにダンボールを勧めたが、体重の乗せ方が下手なのか微動だにしない。「これはちょっと恥ずかしいなぁ」といって諦めて立ち上がろうとするおじさんを「盗撮より恥ずかしくないから大丈夫です」と言って制止した。
おじさんの背中を押すとゆっくりと滑り出した。と思っていたらみるみるうちに勢いがつく。土手は斜面、平面、斜面となっているので、平面から斜面に差し掛かるときに一度ふわっと宙に浮くときがある。おじさんの勢いがすごすぎて、ミサイルのように宙に射出された。案の定そのあと着地には失敗し、ゴロゴロと転げ落ちた。
「大丈夫ですか?」
おじさんはグッタリとしていて、目の焦点も定まってなかった。しばらくして息が落ち着いてくると「大丈夫」とか細い声で答えた。
「なんかすみません」
「いや……生きてる実感が沸くね」
そういって乾いた声で笑った。盗撮のおじさんが、自分と同じような感想を抱いたのは少し嫌だった。