生きたまま埋めるのはかわいそうだよ

シュールな世界観がいいね~って棒読みで言って

サボり⑨

ホームセンターで買った断ち切り鋏をもって千葉県の君津駅まで電車で移動した。
牧場内では多くの家族連れの客が休暇を満喫していた。トイレで断ち切り鋏を開封し、後ろ手に持った状態で柵に近づき、至極当然といった顔つきで乗り越え、豚小屋に入り込んだ。断ち切り鋏を振りかぶって思い切り豚の背中に突き刺そうとした。が、刃は豚の表皮を滑り、軽い切り傷をつけたにとどまった。豚がゴムで流し台を擦ったかのような甲高い声で鳴く。もう一度振りかぶって突き刺そうとしたが、やはり滑る。予想以上に素早い動きで豚が逃げるので、まだ状況を理解していない目をした別の豚を上から抑え込み、断ち切り鋏を真下に向けて突き刺した。豚の表皮が避け、新鮮な果汁のように血液が溢れ出すが、刃は2センチほど刺さったのみだ。駆けつけた飼育員の男が、「おい、やめろ!」と叫ぶが、刃物を恐れてか近寄ろうとはしない。どれだけ力を入れても豚が鳴き叫び暴れるのみでこれ以上深くは刺さりそうにない。断ち切り鋏を抜き取り、眼前に翳しながら慎重に柵を乗り越える。絶対に飼育員から目を離さない。彼は両手を胸の前に構えているが、指先は震えている。柵の上から飛び降り全速力で牧場を駆け抜ける。来客は悲鳴を挙げる。母は子を庇い、男はガールフレンドの手を取り、道を開けてくれる。ゲートを越えるときものすごいスピードで警備員が駆け寄ってくる。なるべく鋏をもった腕を強く振り回して威嚇しながら自動改札機のフラップドアのようなものを蹴破る。牧場を出ると誰も追ってこなくなったため、鋏をポケットにしまい、ペースを落とし、上がった息を整えながら、駅へと向かった。黒いTシャツを着ていたのが幸いし、返り血はあまり目立たなかった。
家に帰ると服を脱いで全てビニール袋に詰めてから全裸で布団を被って寝てしまった。
起きると午後1時だった。最近は大体いつも眠い。大学の講義はそれなりに受けるようにしているが、音楽鑑賞サークル「天狗」に顔を出すことはなくなった。空木とも会うには会うが、2,3分世間話をするだけで一緒に昼食をとったりはしない。そのように人付き合いを断つとやはり暇が生まれるわけで、何か面白いことないかなと考えていた。
本屋、図書館、ブックオフなどは頻繁に行き過ぎているので、行けば行くほど自分の人生が同じことの繰り返しのように思えてくる。今日は少し趣向を変えて海にでもいってみようかと思った。
僕にとって海といえば鎌倉だ。やはり関東圏で手軽に海に行くとなると鎌倉になってくる。他にもあるのかもしれないが、鎌倉だろう。とにかく鎌倉である。赤羽から湘南新宿ラインで一本だ。海に浸かってもいいように短パンを履き、脚を拭けるタオルを用意して、いざ出発。