2019-01-01から1年間の記事一覧
鬱野たちとの会合がお開きになり、「ではまた」と挨拶して吉祥寺駅のエスカレーターを登りながら私は全員のSNSアカウントをブロックした。今日会った誰とも、それ以降連絡を取ることはなかった。 いま私は地元の街を歩いている。街を歩いていると、われわれ…
春先といえども夜になると冷え込みも強くなり、外で立ち話を続けるのもなかなかつらくなってきた。「どこか移動する?」と鬱野が提案するが、エクスタの「そうですねぇ」という、一見肯定のようだが実は肯定でも否定でもない返答以外は、誰も何も言わなかっ…
鬱野を含めた4人が私に注目した。上裸で叫んでいた男はすぐに観客が一人もいなくなったことに気づくと、開いていた大股を閉じ、やけにシュッとした姿勢になってこちらに近寄ってきた。シュッとしつつ、上裸だった。 「こちら、水草さんって言って、なんてい…
久しぶりにいい気分になって終電で家に帰っていると、鬱野からスマートフォンにメッセージが来ていた。なんらかのwebページへのリンクだった。開くと、カップルと思しき高校生くらいの男女が、学校で行為に及んでいる動画だった。なんの説明もなくそのリンク…
鬱野と私の間で交わされた会話をこれから書いていきたいのだが、鬱野が私の名を呼ぶところをどう表現しようか迷っている。というのも、私は、なにか固有名を持つ存在ではなく、「私」なのだと思っているからだ。他にも命名によって人物像がブレてしまうとい…
鬱野というのは本名ではないだろう。わからない。全国にはそういう名前の人もいるかもしれない。どうでもいいか。彼のことはTwitter上でしかしらない。私は、世の大体のことはTwitter上でしかしらない。鬱野は三島由紀夫や寺山修司が好きで、はっぴいえんど…
目覚まし時計のいらない日々が始まった。「今日から無職です」と試しにTwitterでつぶやいてみたが、さほど反応はない。同年代の人々は、多くが学生や社会人として、自分のやるべきことに取り組んでいるからだ。試しに街を出歩いてみる。近所の公園では、ビビ…
2年間働いた会社を辞めた。最後の2週間ほどは有給休暇をもらっていた。その2週間の最終日に、会社から貸与されていたスマートフォン等の備品を返却することになっていた。「何時でもいいよ」とのことだったので、私は昼過ぎにのんびりと会社に行った。社員は…